東京高等裁判所 昭和55年(行コ)50号 判決 1983年3月28日
群馬県桐生市永楽町一番一五号
控訴人
桐生税務署長
藤岡博
右指定代理人
櫻井登美雄
嗚海悠祐
鮎澤五春
江口育夫
群馬県桐生市相生町一丁目二〇八番地
被控訴人
有限会社黒澤商店
右代表者代表取締役
黒沢朝勝
右訴訟代理人弁護士
坂本泰一
内田武
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人が被控訴人に対して昭和四二年七月三一日付で
一 被控訴人の昭和三七年四月一日から昭和三八年三月三一日までの事業年度分法人税について、課税標準額を三六一万一、六六四円とした更正処分のうち課税標準額六三万九二二円を超える部分、及び重加算税三五万二、五〇〇円とした賦課決定処分のうち過少申告所得額一万二九八円に対応する重加算税額を超える部分
二 被控訴人の昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日までの事業年度分法人税について、課税標準額を三一一万二、〇九六円とした更正処分のうち課税標準額一六四万七、六一五円を超える部分、及び重加算税二四万三、三〇〇円とした賦課決定処分のうち重加算税額七万七、八四〇円を超える部分
三 被控訴人の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度分法人税について、課税標準額を一二三万七、六四七円とした更正処分のうち課税標準額一〇三万二、九四八円を超える部分、及び重加算税五万一〇〇円とした賦課決定処分のうち過少申告所得額二五万一、六八二円に対応する重加算税額を超える部分
四 被控訴人の昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度分法人税について、課税標準額を二三三万四二四円とした更正処分のうち課税標準額一二〇万二、五二七円を超える部分、及び重加算税一一万一、九〇〇円とした賦課決定処分のうち過少申告所得額一九万三、〇〇四円に対応する重加算税額を超える部分
五 昭和四〇年五月分源泉徴収所得税一九万七、四〇〇円とした納税告知処分及びその不納付加算税一万九、七〇〇円とした賦課決定処分
六 昭和四一年五月分源泉徴収所得税一九万三、一〇〇円とした納税告知処分のうち所得額一三万八、〇〇〇円に対応する源泉徴収所得税額を超える部分、及び不納付加算税一万九、三〇〇円とした賦課決定処分のうち右所得税額に対応する不納付加算税額を超える部分
をいずれも取り消す。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、次に付加するほか、原判決の事実摘示(ただし、原判決一八枚目表九行目「原告が」から同裏一行目「否認した。」までを「被控訴人が当期の損金に計上した価格変動準備金九万八、三五〇円は、前記3の(五)と同様の理由により損金として認容した。」と、七行目「七八万八、一九三円を「七万八、一九三円」と、二〇枚目表一〇行目「原告が」から同裏二行目「した。」までを「被控訴人が当期の損金に計上した価格変動準備金一〇万円は、前記3の(五)と同様の理由により損金として認容した。」と訂正する。)と同一であるから、これを引用する。
(控訴代理人の陳述)
一 本件仮名預金設定時に同預金に預入された現金一〇〇万円は、被控訴人代表者黒澤個人の資産ではなく、本件係争年度以前において被控訴人の簿外取引によって蓄積された被控訴人の簿外資産である。審査裁決において右一〇〇万円を被控訴人代表者個人の仮受金として原処分の一部を取り消したのは、右一〇〇万円の蓄積時点が不明確で、本件第一係争年度に生じた簿外資産と断定できなかったからにすぎない。原審における控訴人の主張中右と異なる部分は撤回する。
ところで、一般に仮名預金の設定は、所得を隠ぺいし、税負担を不当に回避することを意図してなされるものであることは、経験則上明らかであるから、仮名預金所有者の公表帳簿に一旦計上されたものが後に仮名預金に預入されるということはありえないはずである。したがって、税務訴訟において課税庁が納税者の仮名預金の存在を主張立証した以上、当該仮名預金に預入されたものは公表帳簿の売上には計上されていないとの強い推定が働くというべきであるから、もしこれが公表帳簿の売上に計上されているというのであれば、それを主張する納税者において、具体的にその計上個所及び金額を特定して右推定を覆えすに足りる主張立証をする必要があるところ、被控訴人は右主張立証をしていない。
二 控訴人は、原審においてした主位的主張及び予備的主張に加えて、財産増減法又は損益計算法等による被控訴人の係争年度所得の推計として、次のとおりの予備的主張をする。
1 まず、財産増減法により、当期末の純資産から前期末の純資産を控除して各係争年度の当期所得を算定すると、別表一〇の控訴審予備的主張1の順号B欄記載のとおりとなる。以下その算出根拠となる同表の関係順号の数字について説明する。
(一) 普通預金期末残高計上漏れ(順号<3>)
本件各係争年度の各期末において、本件仮名預金にはそれぞれ順号<3>の金額の当期末残高が存し、これが被控訴人の公表貸借対照表の資産に計上されていないため、右各年度の簿外所得金額の算定にあたり、各当期資産計上漏れとして加算した。
(二) 現金期末残高計上漏れ(順号<4>)
本件仮名預金の各係争年度別の預入の明細は原判決別表五のとおりであるが、このうち第二係争年度(同表では昭和三八年度)の昭和三八年四月二日に現金で預入された七六万五、五六六円、第三係争年度(同表では昭和三九年度)の同三九年四月二日に現金で預入された一八〇万円、第四係争年度(同表では昭和四〇年度)の同四〇年四月一日に現金で預入された六〇万円及び第四係争年度の翌事業年度の同四月四日に現金で預入された一三〇万円は、いずれも各期首に預入されているもので、その預入時期及び預入金額等に照らし、各期首以降に発生したものではなく、その直前期末現在において既に発生し存在していた現金であって、所得発生期末までに預入手続のなされなかったものと認めるのが相当であるから、右各金額は、簿外所得の算定にあたり、各直前期における当期資産計上漏れとして加算した。
(三) 普通預金預入額中発生年度不明分(順号<13>)
本件仮名預金開設時の昭和三七年一二月三一日に同預金に現金で預入された一〇〇万円は、被控訴人の簿外取引の結果蓄積された簿外資産と認められるものであるが、その発生時期が第一係争年度中であると断定することができないため、その前期(昭和三六年四月一日ないし同三七年三月三一日)末資産として認容し、これを減算した(なお右一〇〇万円が被控訴人の代表者個人の資産であるとしても、個人資産を理由として第一係争年度においてこれを減算すべきものであるから結果は同一となる。)。
(四) 前期末普通預金認容(順号<14>)
前記(一)のとおり各係争年度末における本件仮名預金残高は、各期末の簿外資産に計上したものであるが、これにより、右同額をそれぞれの翌期において、前期末普通預金として認容し、これを減算した。
(五) 前期末現金認容(順号<15>)
前期(二)のとおり各係争年度末における現金期末残高計上漏れを、各期末の簿外資産に計上したものであるが、これにより右同額を、それぞれの翌期において前期末現金として認容し、これを減算した。
(六) 前期末現金払出否認(順号<5>)
前期(二)のとおり各係争年度末における現金期末残高計上漏れを、各期末の簿外資産に計上したが、右各金額は、それぞれその翌期(の期首)において本件仮名預金に預入され翌期において払出しがなされており、これが経費として使われているならば、原告にとって所得計算上有利なことであり、かつ主張・立証し得るところであるのにかかわらず、この主張・立証がないこと等を合理的に考察するなら右翌期において資産計上漏れと同様に認定し得るものである。
(七) 役員賞与否認(普通預金減少分)(順号<6>)
順号<6>の金額は、いずれも各係争年度における本件仮名預金の前期末残高と当期末残高との減算差額である。簿外取引により得られた所得を蓄積するための本件仮名預金の残高は、右簿外取引以外の目的で支出処分されない限り当然に漸次増加することはあっても減少することはないのであるから、それが事実上減少してその減少理由が明確でない場合には、最低限右預金の期首残高と期末残高とを比較して減少した右預金の金額は、右預金を管理していた被控訴人の代表者個人のために支出処分された蓋然性が強く、かつ、これが合理的な考察であって、したがって控訴人は、右金額を税務処理上被控訴人の代表者個人に対する認定賞与と判断し、これを資産計上漏れと同様に取扱い加算した。
(八) 別表一〇の順号<8>、<9>、<17>ないし<20>の各項目については、第一審の主位的主張において説明したのと同じである。
以上によれば本件各更正処分は、第一及び第二各係争年度については、控訴人の主張額は原処分の認定額以上であるからすべて適法であり、第三及び第四各係争年度においては、原処分の認定額を下廻るもののなお確定申告額を上廻るからその限度で適法である。したがって原判決は右の限度で取消さるべきである。
2(一) 仮に右主張が認められないとしても、被控訴人は、前記一のとおり、本件仮名預金への預入額に被控訴人代表者個人の剰余金及び被控訴人の公表帳簿計上済の売上金が存しないとの推定を覆えすに足る反証をあげ得ないのであるから、本件仮名預金への預入額のうち、その預金利息を除いた昭和三七年度分二八五万二、三五三円、昭和三八年度分九九一万三、三四三円、昭和三九年度分九八〇万九七九円、昭和四〇年度分九〇六万九、九〇〇円は簿外売上に係る預入金と認められるべきである。
そうすると、右各金額に被控訴人の当該各係争年度における公表の利益率(決算書上の利益率)を乗じて得た金額は被控訴人の右簿外売上に係る簿外所得金額であり(簿外売上についてもその業種・形態は公表部分と差異がないと認めるのが相当であるため、簿外売上に対する所得を算出するために公表の利益率を使用することは妥当な推計方法である。)、これと当該各年度の本件仮名預金の預金利息(昭和三七年度分一万二九八円、昭和三八年度分五万六、一〇〇円、昭和三九年度分七万八、一九三円、昭和四〇年度分五万二、一四一円)との左記合計額が被控訴人の本件仮名預金に伴う簿外所得と認められるべきである(別表一〇の各控訴審予備的主張2)。
(1) 昭和三七年度分 一二七万四、四五二円
<1>2,852,353×<2>11.08%=<3>316,040
<3>316,040×<4>10,298=<5>326,338
(注 <1>簿外預入金 <2>利益率 <3>簿外売上に係る所得金額 <4>預金利息 <5>本件仮名預金に係る所得金額、以下同じ)
右三一万六、〇四〇円は、同年中の昭和三八年一月から同年三月までの三か月分の簿外所得であるところ、被控訴人の同年度中の昭和三七年四月から同年一二月までの九か月分の簿外所得金額は不明であるから、この間の簿外所得を推計すると次のとおり九四万八、一一四円である。
1ケ月の簿外所得
316,040÷3=105,346
推計月数 推計簿外所得
105,346×9=948,114
したがって、同年度中の被控訴人の簿外所得の合計額は次のとおり一二七万四、四五二円である。
実額(3ケ月分) 推計(9ケ月分) 預金利息 簿外所得額
316,040+848,114+10,298=1,274,452
(2) 昭和三八年度分 一一五万八、四六三円
<1>9,913,343×<2>11.12%=<3>1,102,363
<3>1,102,363+<4>56,100=<5>1,158,463
(3) 昭和三九年度分 一二九万八、四一四円
<1>9,800,979×<2>12.45%=<3>1,220,221
<3>1,220,221+<4>78,193=<5>1,298,414
(4) 昭和四〇年度分 一三二万二、八三三円
<1>9,069,900×<2>14.01%=<3>1,270,692
<3>1,270,692+<4>52,141=<5>1,322,833
(二) 原判決は、被控訴人の売上の公表帳簿計上と本件仮名預金への預入の関係について、本件仮名預金に預入の小切手入金のうち、原判決別表七の順号3、4、6、8、13及び21(以上昭和三七年度分)、33及び35(以上昭和三八年度分)、39、40及び43ないし45(以上昭和三九年度分)については、被控訴人の公表帳簿(掛入金控帳及び現金出能帳)に計上されている売上であると認めたが仮に原判決の右認定が正当であるとすれば、少くとも本件仮名預金預入金のうち、その余の小切手及び現金預入は、被控訴人において前記推定を覆えすに足る反証をあげ得ないものとして、被控訴人の公表帳簿の売上計上の事実を否定すべきである。
そうすると本件仮名預金への預入金のうち、原判決認定の売上計上分を除く少くとも昭和三七年度分は二六四万九、五七〇円、昭和三八年度分は九八〇万五一〇円、昭和三九年度分は九六四万四、三九九円、昭和四〇年度分九〇六万九、九〇〇円は簿外売上の預入金と認められるべきで、右各金額について前記(一)と同様の計算をして算出した左記合算額が、被控訴人の本件仮名預金に伴う簿外所得と認められるべきである(別表一〇の各控訴審予備的主張3)。
(1) 昭和三七年度分 一一八万四、五八三円
<1>2,649,570×<2>11.08%=<3>293,572
<3>293,572+<4>10,298=<5>303,870
(注 <1>簿外預入金 <2>利益率 <3>簿外売上に係る所得金額 <4>預金利息 <5>本件仮名預金に係る所得金額、以下同じ)
右二九万三、五七二円は、同年中の昭和三八年一月から同年三月までの三か月分の簿外所得であるところ、被控訴人の同年度中の昭和三七年四月から同年一二月までの九か月分の簿外所得金額は不明であるから、この間の簿外所得を推計すると次のとおり八八万七一三円である。
1ケ月の簿外所得
293,572÷3=97,857
推計月額 推計簿外所得
97,857×9=880,713
したがって同年度中の被控訴人の簿外所得の合計額は次のとおり一一八万四、五八三円である。
実額(3ケ月分) 推計(9ケ月分) 預金利息 簿外所得額
293,572+880,713+10,298=1,184,583
(2) 昭和三八年度分 一一四万五、九一六円
<1>9,800,510×<2>11.12%=<3>1,089,816
<3>1,089,816+<4>56,100=<5>1,145,916
(3) 昭和三九年度分 一二七万八、九二〇円
<1>9,644,399×<2>12.45%=<3>1,200,727
<3>1,200,727+<2>78,193=<5>1,278,920
(4) 昭和四〇年度分 一三二万二、八三三円
<1>9,069,900×<2>14.01%=<3>1,270,692
<3>1,270,692+<4>52,141=<5>1,322,833
(三) そしてまた被控訴人は、昭和四〇年度中に一括現金で購入した自動車を月賦取引によって購入したかのごとくに公表帳簿である現金出納帳を仮装し、この仮装経理によって正当な実際購入代金三四万九、〇〇〇円と不正な月賦賦払金等合計額三五万九、〇〇〇円との差額一万円の簿外資金化を図ったものであるが、これに伴ない左表のとおり同年度中に減価償却費七四七円の水増し計上を行っていたものである。
減価償却費の水増し計上額(単位 円、定額法による)
<省略>
そうすると被控訴人の本件各係争年度における各総所得金額は、各確定申告額に、前記(一)又は(二)に右を加算し、さらに別表一〇記載の順号<8>、<9>、<17>及び<18>(被控訴人の青色申告の承認の取消しに伴う税務調整等)記載の各金額を加算減算し、右各合計額に相応する寄付金認容額及び未納事業税認容額(ただし、昭和三九年度分については控訴人の主張所得金額が更正額を上回る範囲内主張であり、これをもって課税するものでないから翌年度で認容する未納事業税の額は変動しない。)を減算した各金額ということになる(別表一〇の各控訴審予備的主張2及び3)。
3 仮に被控訴人に前記本件仮名預金の預入金に係る所得が認められないとしても、被控訴人は本件各係争年度において、前記のように<1>本件仮名預金に係る預金利息(昭和三七年度分一万二九八円、昭和三八年度分五万六、一〇〇円、昭和三九年度分七万八、一九三円、昭和四〇年度分五万二、一四一円)、<2>自家用自動車減価償却超過分(昭和四〇年度分七四七円)が存するほか、まず<3>公表帳簿の仕入計上に対応する架空な売上値引の帳簿計上、<4>簿外の名入タオル仕入及び<5>簿外の米の仕入がおのおの存するので、これらに関する所得についても、被控訴人の当該係争年度の所得に加算されるべきである。
(一) すなわちまず右<3>の架空な売上値引の帳簿計上についてである。被控訴人は、既に掛入金控帳において売上値引を計上し、その値引後の金額を売上として現金出納帳に計上しておきながら、その後更に右値引相当額を再度現金出納帳に「値引」として計上し、売上金額から値引額を二重に控除しているものが存するのであって、これらによる架空の売上値引の帳簿計上分は、別表一一の1ないし4のとおり昭和三七年度分一万七四円、昭和三八年度分一万一、九四〇円、昭和三九年度分四万六、四一二円、昭和四〇年度分一万九、〇七六円である。
(二) 簿外の名入タオルの仕入れが昭和三八ないし昭和四〇年度分において、それぞれ五〇万円、簿外の米の仕入が昭和三九年度七二万円、昭和四〇年度六一万八、八九〇円存し、これは仕入・売上とも簿外に係るものであるから、それぞれ以下(1)ないし(3)のとおり右各金額を各係争年度の前期決算書上の利益率で除して算出された仕入に対応する売上金額から、右仕入金額を控除した残額をもって、右簿外の名入タオル及び米の取引に係る所得(昭和三八年度分六万二、五五六円、昭和三九年度分一七万三、四八九円、昭和四〇年度分一八万二、二九六円)と認定されるべきである。
(1) 昭和三八年度分
<省略>
(注) 売上総利益率の計算は次式のとおり
(純売上高) (売上原価) (純売上高) (売上総利益率)
(四九、〇一〇、三五八-四三、五五六、六三〇)÷四九、〇一〇、三五八=一一・一二%
(2) 昭和三九年度分
<省略>
<省略>
(注) 売上総利益率の計算は次式のとおり
(売上総利益) (純売上高) (売上総利益率)
六、一七七、一七四÷四九、五九七、七二二=一二、四五%
(3) 昭和四〇年度分
<省略>
(注) 売上総利益率の計算は次式のとおり
(売上総利益) (純売上高) (売上総利益率)
八、〇八六、八九七÷五七、七一九、八一六=一四・〇一%
(三) そうすると被控訴人の本件各係争年度における各総所得金額は、各確定申告額に前記本件仮名預金の預金利息及び減価償却超過額に(一)及び(二)の金額を加算し、さらに別表一〇記載の順号<8>、<9>、<17>及び<18>(被控訴人の青色申告の承認の取消しに伴う税務調整等)記載の各金額を加算減算し、右各合計額に相応する寄付金認容額及び未納事業税認容額を減算した各金額ということになる(別表一〇の各控訴審予備的主張4)。
三 次に認定賞与についてみるに、本件仮名預金の預入額のすべてを簿外売上とする損益計算法(前記二、2、(一)及び(二))においては、簿外売上に対する簿外仕入を算出したうえ、本件仮名預金の払戻額から右簿外仕入額を控除した残額をもって少くとも認定賞与と認められるべきである(公表帳簿上の自動車の月賦賦払金の架空計上額を加算することは後記と同様である。)。
(一) 前記二の2の(一)の場合
(1) 昭和三八年度分 四三万三、〇二〇円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額
9,244,000-(9,913,343-1,102,363)=433,020
(2) 昭和三九年度分 一九九万一、二四二円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額
10,572,000-(9,800,979-1,220,221)=1,991,242
(3) 昭和四〇年度分 一八五万七、七九二円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額 自動車購入代金
9,831,000-(9,069,900-1,270,692)-312,000
架空仕入計上分
+138,000=1,857,792
(二) 前記二の2の(二)の場合
(1) 昭和三八年度分 五三万三、三〇六円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額
9,244,000-(9,800,510-1,089,816)=533,306
(2) 昭和三九年度分 二一二万八、三二八円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額
10,572,000-(9,644,399-1,200,727)=2,128,328
(3) 昭和四〇年度分 一八五万七、七九二円
払戻額 簿外売上預入額 簿外売上に係る所得金額 自動車購入代金
9,831,000-(9,069,900-1,270,692)-312,000
架空仕入計上分
+138,000=1,857,792
なお、右金額は本件仮名預金の預入額を簿外売上とする損益計算法(前記二、2、(一)及び(二))により算出される簿外所得が、本来、本件仮名預金の残高の増加として存在すべきであるところ、現実には右簿外所得に見合う預金残高の増加が認められないので少くともその不足額はいずれも使途不明金として被控訴人の代表者個人に対する認定賞与と認められるべきであるとして計算される金額と一致するものである。
仮に右各主張が認められないとしても、被控訴人は、昭和四〇年九月に軽四輪貨物自動車一台を代金三四万九、〇〇〇円で購入し、右代金を一括現金で支払いながら、公表帳簿である現金出納帳上に月賦で支払ったかのように架空の計上をし、同年一〇月から昭和四一年三月までの間毎月二万三、〇〇〇円宛六回にわたり計一三万八、〇〇〇円を支出計上しているが、かくて支出された右一三万八、〇〇〇円の使途は不明であるから、これを昭和四〇年度における被控訴人代表者黒沢に対する認定賞与と認めるべきである。
四 被控訴人は、昭和三七年度及び昭和三八年度分の更正につき更正期間徒過を主張するが、被控訴人は、控訴人の前来主張の方法により右両年度分の法人税の申告に当たり偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れたのであるから、更正期間は五年であって、期間内の更正処分である。
(被控訴代理人の陳述)
一 被控訴人は、本件各係争年度の法人税の申告につき偽りその他不正の行為をしていないから、更正処分は申告期限から三年を経過した日以後においてはすることができないところ、本件昭和三七年度及び昭和三八年度分の更正は、各申告期限後三年を経過した後である昭和四二年七月三一日になされたものであるから、無効である。
二 控訴人は、名入タオル及び闇米につき仕入金額に売上総利益率を乗じて所得を算出しているが、営業利益率を乗ずべきである。また、控訴人は、名入タオルを全部簿外にかかるものとしているが、原判決別表七の順号2、15、45の小切手はタオルの売上を含んでおり、昭和四〇年度分の闇米仕入金額を六一万八、八九〇円と主張するが、三六万円である。
(証拠)
控訴代理人は、乙第二三号証の一ないし二三、第二四ないし第三〇号証を提出し、当審における被控訴人代表者の本人供述を援用し、甲第二四号証の原本の存在並びに成立を認め、被控訴代理人は、甲第二四号証を提出し、右乙号各証の成立を認めた。
理由
当裁判所の判断も、左に付加するほか、原判決が、その理由において説示する部分(原判決四五枚目裏六行目まで、ただし、原判決三二枚目表一〇行目「43」を「42」、「45」を「44」と三七枚目裏二行目「以上を」から四行目「認定する。」までを「以上を総合すると右一〇〇万円は被控訴人の黒澤個人からの仮受金である可能性も強く、これが被控訴人の昭和三七年度以前の簿外資産であると認定するに足りる証拠はない。」と訂正し、三八枚目表二行目「あること」の次に「及び後述のとおり本件仮名預金の預入額が現金出納帳の残高を超えてなされていることが多いこと」を加え、四〇枚目表九行目「と黒澤個人の剰余金」を削り、一〇行目「更に」の次に「黒澤個人の剰余金及び」を加え、一一行目「昭和三七年」から同裏一行目「除いては、」までを削り、四一枚目表二行目「原告の」の次に「公表の」を加え、四二枚目裏六行目「一一月」を「一〇月」、「毎月三万」を「毎月二万」と訂正し、四五枚目裏二行目「いる」の次に「可能性が強く、したがって反面本件仮名預金の払戻の中に公表帳簿に計上された仕入れに当てられたものの存在も否定できない」を加える。)と同一であるから、右部分をここに引用する。
一 控訴人は仮名預金がある以上当該仮名預金に預入されたものは公表帳簿の売上には計上されていないと推定すべきであると主張するけれども、右推定が働くためには、当該公表帳簿が簿記会計の原則に従って正しく記帳されていることが前提事実でなければならない。この点について控訴人は、桐生税務署職員高橋辰男が昭和四〇年一〇月一二日に被控訴人を調査した際、被控訴人の現金出納帳上の現金残高記帳額と実際の現金有高とが一致したから、右現金出納帳は正しく記帳されていたものであるという。しかし、控訴人の所部職員が右のような突合調査をしたのは、四年間にわたる本件係争事業年度期間中ただ一回であり、しかも、前掲乙第一三号証及び原審証人高橋辰男の証言によると、前同日調査した際の被控訴人の記帳上及び現実の現金残高は僅か二万七、八七七円であったことが認められる。ところが、本件仮名預金存続期間と対応する係争事業年度中の被控訴人の現金出納帳(前掲乙第二号証の一ないし一四、第三号証の一ないし五〇、第四号証の一ないし四五、第五号証の一ないし四七、第一九号証の一ないし一〇)を検すると、月末の現金残高記帳額が五〇万円を超える月が少なくなく、中には一〇〇万円前後に達する月もある(昭和三八年一月、三月、昭和三九年三月、昭和四〇年八月、九月)にもかかわらず、原審における証人倉上秀男の証言及び被控訴人代表者の本人供述によると、被控訴人は手持ちの現金を一時預入し、必要に応じて引き出す経常的な預金口座を設定した公表取引銀行を持たなかったことが認められ、現金出納帳にもそのような金銭の出入りは記帳されていないのであるが、被控訴人が常に現金出納帳の残高記帳額どおりの多額の現金を手許に保管していたとみるのは大いに疑問の存するところである。このことと、引用にかかる原判決理由説示の本件仮名預金へ預入の時期、方法、金額を総合勘案すると、被控訴人代表者が被控訴人の公表帳簿上の売上入金と簿外の売上入金とを区別することなく一括保管し、月末または翌月初めに横浜銀行桐生支店の得意先係が集金に来たときにその中からまとまった金額の現金を渡して本件仮名預金に預入し、その支出を現金出納帳には記帳しないこととしていたとみることは、十分理由のあることというべきである。更に引用にかかる原判決理由説示の本件仮名預金への小切手入金の事実に徴し、被控訴人主張の昭和四〇年一〇月一二日における帳簿数字と現金有高一致の事実のみから、被控訴人の現金出納帳が終始正しく記帳されていたものと認めることはできない。したがって、本件において控訴人主張のような推定をくだすことはできないといわなければならない。
二 引用にかかる原判決の理由説示並びに前項に述べたところによれば、本件仮名預金への預入及びそれからの払戻に被控訴人の現金出納帳に記載された売上及び仕入が混入していることが全くないこと、又は原判決が本件仮名預金に預入の小切手のうち公表帳簿に計上されている売上であると認定したもの以外には現金出納帳記載の売上及び仕入の混入がないことを前提として、本件仮名預金の預入額と払戻額とから財産増減法又は損益計算法によって算出した数額を被控訴人の申告額に加算した金額をもって被控訴人の各係争年度の所得額であるとする控訴人の原審における主位的主張及び予備的主張並びに当審における予備的主張1ないし3(別表一〇)の推計計算は、その余の点につき判断するまでもなく、合理的な推計と認めることができないから、採用できない。
三 最後に、被控訴人の当審における予備的主張4(別表一〇記載)について判断する。
1 前掲乙第一号証の一ないし六によると、本件仮名預金にかかる預金利息として、昭和三七年度分一万二九八円、昭和三八年度分五万六、一〇〇円、昭和三九年度分七万八、一九三円、昭和四〇年度分五万二、一四一円が発生し、いずれも本件仮名預金に入金されていることが認められ、すでに述べ来ったところに照らすと、本件仮名預金はほとんど被控訴人の公表及び簿外の営業上の金銭出入りに用いられ、預金口座自体被控訴人に帰属するものと認めるべきであるから、たとえ一部に黒澤個人の現金を預入したものがあるとしても、右利息は全部被控訴人に帰属するものと認めるのが相当である。したがって、右利息はいずれも被控訴人の係争各年度の所得であり、申告所得金額に加算すべきである。
2 前掲乙第一八号証の一、二、乙第一九号証の一ないし一〇及び原審における被控訴人代表者の本人供述によると、被控訴人は、昭和四〇年度中に一括現金で購入した自動車を月賦取引によって購入したかのように公表帳簿である現金出納帳を仮装したことが認められる。そうすると、この仮装経理によって、控訴人主張のとおり右自動車の減価償却費のうち七四七円が昭和四〇年度分に水増し計上されたことになる。
3 控訴人主張の、別表一一の1ないし4のとおりの掛入金控帳と現金出納帳とにおける売上値引額の二重計上の存在については、被控訴人においてこれを明らかに争わないので、自白したものとみなす。これによれば、右別表記載の金額は架空の値引額であるから、これを公表売上額に加算すべきである。
4 昭和三八年度ないし昭和四〇年度において簿外の名入タオルの仕入が各五〇万円、昭和三九年度において米の簿外仕入が七二万円、昭和四〇年度において米の簿外仕入が三六万円存したことは、引用にかかる原判決の理由説示のとおりである。控訴人は、昭和四〇年度において米の簿外仕入が右のほかになお二五万八、八九〇円あったと主張し、これは、前掲乙第一四号証の添付メモに記載の「碓氷ドライブイン立替払」と称する二口合計二五万八、八九〇円を指すもののようであるが、右メモの標題書きには「米仕入洩分」と記載されているものの、右「碓氷ドライブイン立替払」というのがいかなる趣旨かは不明であって、この分は、次に述べる方法による所得金額算出のための仕入金額に加えることは相当でないというべきであるので、右金額は除外することとする。
そうすると、右認定の名入タオル仕入各五〇万円及び米の仕入昭和三九年度七二万円、昭和四〇年度三六万円について、控訴人主張のように、各仕入金額に各年度の被控訴人の売上総利益率(これは被控訴人の公表決算書から算出されるもので、その各年度の数字が控訴人主張のとおりであることは、被控訴人において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。)を乗ずる手法によって算出される所得額は、簿外所得として申告所得額に加算すべきである。その金額は、昭和三八年度分及び昭和三九年度分については控訴人の主張の金額となり、昭和四〇年度分については、次式により一四万一一六円となる。
仕入金額 売上総利益率 仕入金額 所得金額
860,000円÷(1-0.1401)-860,000円=140,116円
被控訴人は、右の計算方法につき、売上総利益率を乗ずるのでなくて、営業利益率を乗ずべきであると主張するが、総売上金額から総所得金額を算出する場合でなく、公表決算書類に計上されていない一部の売上に伴う所得金額を算出して公表所得金額に加算するものであって、かつ右除外された一部の売上に固有の人件費、一般管理費等を要する場合ではないから、売上総利益率を乗ずるのが正しい方法である。また被控訴人は、原判決別表七の順号2、15、45の小切手はタオルの売上を含んでいると主張するが、そのように認めることのできる証拠はなく、かつ右三通の小切手が公表帳簿に計上されていると認められないこと引用にかかる原判決の理由説示のとおりであるから、右主張も理由がない。
5 本件税務計算上の加算額及び減算額としての別表一〇の順号<8>及び<17>ないし<20>の費目と金額の存在については、当事者間に争いがないか、又は被控訴人において明らかに争わず、順号<9>の費目と金額の存在については、成立に争いのない乙第八号証の三により認めることができる。
そうすると、被控訴人の本件各係争年度における所得は、少なくとも、昭和三七年度分については別表一〇の控訴審予備的主張4の順号B欄記載の金額である六三万九二二円、昭和三八年度分については同じく九九万四、八八七円、昭和三九年度分については同じく一〇三万二、九四八円、昭和四〇年度分については、別表一〇の控訴審予備的主張4の順号<1>欄記載の金額が一、〇一九、一九二、同<11>欄記載の金額が八六〇、〇〇〇となるので加算減算して、一二〇万二、五二七円の限度で存することが認められるが、それ以上の所得の存在は証明がないことに帰する。
四 被控訴人は、昭和三七年度分及び昭和三八年度分の更正につき、三年の更正期間を過ぎた後になされたものであるから無効であると主張するが、被控訴人が昭和三七年一二月三一日本件仮名預金を設定して以来、売上の一部を公表帳簿から除外し、その売上金を本件仮名預金に預入するなどして所得の一部を隠ぺいし、このようにして作られた偽りの公表帳簿に基づいて右両年度の法人税の申告をしたものと認めるべきことは、引用の原判決理由に説示の認定事実から明らかであるから、右両年度の更正期間は五年であって、被控訴人の主張は理由がない。
そうすると、控訴人がした被控訴人の各事業年度の法人税に関する更正処分のうち、昭和三七年度分、昭和三九年度分及び昭和四〇年度分については、課税標準額につき前項に認定の各所得金額を超える部分が違法となるので取消しを免れず、昭和三八年度分については、被控訴人が取消しを求める課税標準額につき一六四万七、六一五円を超える部分が取消しを免れないこととなる。
五 次に、重加算税の賦課決定処分の当否について検討するに、前認定の、申告所得金額に加算すべき所得のうち、本件仮名預金にかかる預金利息、購入自動車の減価償却費の水増し計上分及び名入タオルと米の簿外売上による利益については、さきに認定した事実から、仮装又は隠ぺいによる過少申告と認めることができるから、その過少申告所得額に対応する重加算税についてはこれを課する理由があるが、値引額の二重計上にかかる所得については、その二重計上が隠ぺい又は仮装の意図をもってなされたものと認めるに足りる証拠がないから、重加算税を課する対象所得とはいえないというべきである。
そうすると、控訴人のした各事業年度にかかる重加算税賦課決定処分のうち、昭和三七年度につき一万二九八円、昭和三九年度分につき二五万一、六八二円、昭和四〇年度分につき一九万三、〇〇四円の各所得金額に対応する部分は理由があるが、これを超える部分は違法であるから取り消すべきであり、昭和三八年度分については、重加算税を課することのできる対象所得金額は一一万八、六五六円となるので、被控訴人の取消しを求める重加算税額七万七、八四〇円を超える部分につき取り消すべきこととなる。
六 次に、源泉徴収所得税及び不納付加算税の賦課処分について検討するに、被控訴人が昭和四〇年九月一七日ホンダ軽四輪貨物自動車一台を代金三四万九、〇〇〇円で購入して、その頃代金を一括現金で支払いながら、現金出納帳上月賦で購入したように装って架空の支出を計上していることは、引用にかかる原判決の理由に説示するとおりであり、前掲乙第一九号証の一ないし一〇によると、同年一〇月から昭和四一年三月までの間毎月二万三、〇〇〇円宛六回にわたり計一三万八、〇〇〇円が右月賦代金として支出計上されていることが認められる。しかし、かくて支出された右一三万八、〇〇〇円の使途は不明であるから、これを昭和四〇年度における被控訴人代表者黒澤に対する認定賞与と認めるべきである。控訴人の認定賞与に関する主張のうち右の部分は理由があるが、その余の主張は、いずれも本件仮名預金がすべて被控訴人の簿外資産であることを前提とするものであるから、さきに説示したところに照らし、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
そうすると、控訴人が被控訴人に対してした各源泉徴収所得税納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分は、昭和四一年五月分源泉徴収所得税告知処分及びその不納付加算税賦課決定処分につき右認定賞与額一三万八、〇〇〇円に対応する部分についてのみ理由があり、その余は理由がないから取消しを免れない。
七 以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人に対する請求は、控訴人が被控訴人に対して昭和四二年七月三一日付でした各処分のうち、主文第二項一号から六号までの各取消しを求める限度で理由があるから、これを正当として認容し、その余の請求は理由がないから、これを失当として棄却すべきである。
よって、右と異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川幹郎 裁判官 高橋欣一 裁判官 菅英昇)
別表一〇
<省略>
<省略>
別表一一の1 架空売上値引の帳簿計上額(第一係争年度)
<省略>
別表一一の2 架空売上値引の帳簿計上額(第二係争年度)
<省略>
別表一一の3 架空売上値引の帳簿計上額(第三係争年度)
<省略>
別表一一の4 架空売上値引の帳簿計上額(第四係争年度)
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